財産分与とは


財産分与は、慰謝料や養育費と違い、
素人にイメージしにくい項目です。

財産分与は大きく分けて3種類あります。

1.清算的財産分与
2.慰謝料的財産分与
3.扶養的財産分与


ここで、一般的に「財産分与」と言われる際、
基本的には1.清算的財産分与の事を指します。

よって、清算的財産分与を中心に説明していきます。




【ライター】

司法書士 嶋田直人




清算的財産分与


清算的財産分与とは、
婚姻期間中に、
夫婦の力で築いた共有財産を、
離婚時に、分け合って清算する事です。



最も簡単なイメージを1つあげます。



図のように、妻名義の預金が100万円、
夫名義の預金が900万円あるとします。

これが、結婚前からある貯金なら話は別ですが、
婚姻期間中に、ゼロから貯金を作り上げたとしましょう。
例えば、
サラリーマンの夫が働き、
専業主婦の妻が子育てと家事をし、
給料は夫名義の通帳に毎月振り込まれる。
そこから生活費を引き出して使うが、
念のため、妻の口座にも100万円を入れておいた。


というような場合です。
この場合、
この900万円と100万円、合わせて1000万円
この貯金を、夫婦2人の力で稼いだ(貯金した)
と考えます。これを「共有財産」といいます。





男性は、「俺が稼いだお金だ」などと言いがちですが、
法的にはそれは通用しません。
奥さんの「内助の功」があったおかげで
サラリーマンとして給与を獲得できたと考えます。

夫名義の通帳になってはいますが、
それはたまたま振込先をそうしていただけ
であり、この際、誰名義かは一切関係なくなります。


ここで、基本的に夫婦の貢献度は2分の1ずつと考えます。

高給取りの社長の妻が、家事をサボって毎日遊びに出ていたり

または

働いて家事もこなすキャリアウーマンが、
売れないバンドマン夫を支えていたりしたら、


多少の考慮がされるかもしれません。
例外は無いとは言えませんが、

基本的には、2分の1ずつ、2人の力で稼いだのだ。
と考えます。これが原則です。





そして最後に、これを「清算」します。
この清算方法がミソです。
今回であれば、
清算方法はこうです。

夫が妻に対し、400万円支払う




さぁ、ご理解いただけたでしょうか?

これを図にすると、こうなります。





初めの図(900万と100万)の状態から、
「本来の姿」である、夫婦でそれぞれ
2分の1ずつ、500万円という状態に戻すため、
現在の財産を、多い方から少ない方へ移動するのです。


これが「清算的財産分与」の本来的意味です。




清算的財産分与には、いくつか重大な注意点があります。





~注意点1 婚姻期間中に増減した財産に限られる~

さきほどの話は、
あくまでも結婚時~離婚時までの話です。
例えば、妻が、結婚する前から貯金していたお金は
財産分与の対象とはならず、共有財産に含みませんし、

上記の夫の名義の預金900万円のうち、
「500万円は独身時代に貯めた。」のであれば、
増加したのは400万円のみであり、
この場合、夫婦の共有財産は
妻100万円
夫400万円
合計500万円
を基準としてお話がスタートします。

このように、財産分与は、
あくまでも「婚姻期間中」の清算です。





~注意点2 離婚の有責性とは関係しない~

仮に上記の場合、離婚原因が「妻の浮気」であっても、
妻は財産分与の清算金を受け取る権利がありますし、

「夫のDV」が離婚原因であっても、
稼ぎへの貢献度2分の1が減ってしまう事は
(基本的に)ありません。


もし、そのようなケースは、別途、
慰謝料という項目で支払ます。

つまり、財産分与の清算によりお金を受け取っても、
それを上回る多額の慰謝料を支払う事になれば、
結果的にお金は受け取れませんし、

逆に、財産分与と慰謝料の額が同じになり、
それらが相殺しあって、実際には
金銭の移動が無い場合も有り得ます。
この場合、
損害を受けた側の配偶者は、
「なぜ慰謝料がもらえないんだ!!」と、
損した気持ちになるかもしれません。



しかしそれは違います。

本来であれば、財産分与として
「たまたま自分の名義にしていただけ」の
夫婦の共有財産を、本来あるべき姿に戻すべく、
相手方にお金を移動させるべきところ、

「慰謝料分」という事で、それを、まぬがれた。
という事になるので、非合理的ということにはなりません。

このように、財産分与は、「どちらが悪いか」
とは全く別の次元の話となります。





~注意点3 マイナスも分け合う~


夫婦共有財産は1000万円だが、
1000万円貯金できたという事は、
現実はもっと稼いでいます。
生活費や遊楽費として消費して、かつ
貯金に回せたお金として
1000万円あるのですから。

ここで、「何にお金を使ったか?」は、
この際、関係ありません。

夫がムダ使いしなければもっと貯まってたのに!

という場合があるかもしれません。
しかし、
そんな性格の夫を選んで結婚したのであり、
その天真爛漫な性格のおかげで、
もしかしたら宝くじを
一発あててくれるかもしれません。


その場合に入ってくるプラスは、
夫婦で分け合えるという前提があります。
その条件のもとでのお話なのですから、
マイナス部分も、2人の責任という考え方が、
基本となります。

(難しく言うと、婚姻期間中の財産減少の
負担割合は、各2分の1である。と言える)



よって、婚姻期間中に財産が減った場合は、
その減った分を2人で分け合うこととなります。


典型的には、結婚して新築を建てたが、
1年ですぐ離婚し、売ったら値段はガタ落ち、
住宅ローンはオーバーローンとなり、
借金だけが残ってしまった。


というようなケースです。





慰謝料的財産分与


慰謝料的財産分与は、
上記の清算的財産分与とは趣旨が全く違います。

これは、言いかえると、「慰謝料」のことです。

説明は以上で、理解してもらってほぼOKです。

例えば、「慰謝料」
「慰謝料的財産分与」
2つの枠を使ってお金をもらう事は基本的にできません。



これだと、
「慰謝料」の二重取りとなってしまいます。
内訳などをしっかり決めて名目を分ければ
不可能ではありませんが、
普通は、「慰謝料」としてのみ請求すれば
それで済みます。



しかし、「慰謝料」という言葉は、
基本的にお金のことを指すので、
例えば、
「慰謝料的な意味合いで、お金の代わりに不動産を渡します」
という方法で合意があれば、
それは「慰謝料的財産分与」という名目で
処理される事となるでしょう。





扶養的財産分与


扶養的財産分与は、
相手方を扶養する(援助する)意味合いで行われる財産分与です。

例えば、離婚せずに別居している場合、
養育費とは別に「婚姻費用」というものを支払ったり
することがありますが、離婚が成立して、なお
相手方を援助する場合は、「扶養的財産分与」という名目になります。

お金のみならず、
住んでいた家を、まるまる奥さんに譲る、
というような場合も、これが清算的財産分与に当たらない場合は、
扶養的財産分与であるという事になります。





【ライター】

司法書士 嶋田直人